誤訳ではないのか

ケルナーの「フーリエ解析大全」(Körner : Fourier Analysis) は楽しい本なのだが,翻訳がちょっとどうなのかなあ,と思う箇所が時折ある。先日,ケルヴィン卿 (William Thomson) の話を読んでいて,やはり違和感を感じた。次の写真は,下巻のp.272なのだが,Thomsonがストークスの定理の発見を見逃した,と書いてある。そんなバカな,である。

Körner Fourier Analysis ケルナー フーリエ解析大全 下巻 p.299

ストークスの定理については,最初に発見したのがトムソンであり,トムソンからストークスへの手紙に書かれていること,ストークスがケンブリッジだったか,大学の数学コンテストの問題として出題した結果,ストークスの定理として広まったこと,これらは良く知られている話であり,どうして「発見を見逃した」ことになっているのか,まったく不可解である。

ということで,原文に当たってみた。次がスキャンしたもののスクリーン・ショット。

Körner Fourier Analysis p.272

当該箇所を書き出してみる。

Other discoveries and inventions of Thomson are dealt with elsewhere in this book. We note in passing the discovery of what is now called Stokes’ theorem and the first mathematical discription of the oscillation of an electric circuit.

うーむ。これがどうして上のように訳されるのか,全く不可解だ。in passing を辞書で調べると,「事のついでに」とか「ちなみに」という意味らしい。してみると,次のような内容なのだろう。適当訳だが。

これ以外のトムソンの発見・発明についてはこの本の別の場所で扱うことになるが,ここでは,今日ストークスの定理と呼ばれている定理の発見と,電気回路の振動を初めて数学的に記述したことを注意しておこう。

Hardy全集をお出かけ自炊してきた

自転車圏内に裁断機・スキャナ完備のレンタル自炊スペースが開店していることを知ったので、先日試しに行ってみた。開放的でゆったりとしていて、お店の人も親切かつ知識豊富。料金はちょっと高めだが、業務用の高性能スキャナで取り込めることなどを考慮すれば、個人的には許容範囲。書籍以外でも、つまりコピー用紙や資料のシートなどでも取り込んで良いという話だったので、大昔にコピーしておいたハーディー全集(第1巻)を自転車に積んで再訪した。

デフォルトは品質80%のjpegなのだが、自分で設定を変えて良いので、可逆圧縮のPNGで取り込んでみた。解像度は300dpi。さすがに600dpiで取り込む勇気はなかった 😉 もっとも、600dpiでモノクロ2値での取り込みなら、ファイルサイズも大したことはないので、こちらは検討の余地あったかも。

JPEGに比べるとPNGの方がサイズ大きいので、若干スピードが遅くなったが、この程度であれば全然問題ない。取り込んだ画像をPCで確認する。

Hardy全集1のプレビュー中

ものの数分で取り込み作業は終了する。むしろ確認に時間が掛かる。まあ、サムネイルでチェックしても大丈夫そうだが。このあとPDFに変換することも出来るようだが、それは自宅でも出来るから、PNG画像のまま、持参したUSBメモリーにコピーして終了。

最初のページは、こんな感じ。読むだけであれば、このままで十分かな。

ハーディー全集第1巻

電子書籍の自炊関係では、著作権がらみで、もろもろあるようだが、裁断機や業務用スキャナをレンタルで使えるお店は個人的には非常に助かるので、長続きして欲しいなあと思う。

9月12日(水曜日)

  • 朝、amazonから孫崎享「戦後史の正体」が届いた。タイトルは煽情的だが中身はいたってマトモな感じ。時間が出来たらゆっくり読もう。

    孫崎享・戦後史の正体

  • Fever-Tree社のトニック・ウォーターで作ったジン・トニックがとても美味しい。200mlなので、ちょうど2杯分。この他にも、Qトニックというトニック・ウォーターがあるらしく、そちらも評判が良いみたいだ。試してみたいが、値段がちょっと高いなあ。

自炊PDFの加工メモ

Hardy-WrightのAn Introduction to The Theory of NumbersのPDF化が完了し,bookscanのサイトからダウンロードした。450ページで150MBほど。これをモノクロ化した。Macで利用できるツール探しから始めたので,けっこう時間かかった。以下,その手順。本のファイル名は hr.pdfとする。

  1. AcrobatでPDFを開き,ページ毎にTIFF形式の画像ファイルにして保存。hr_Page_001.tiffからhr_Page_450.tiffまでの450個のファイルが出来る。
  2. XNViewMP.app, XNConv.app の配布サイトから nconvert というUNIX プログラムをダウンロードしておく。パスの通っている適当な場所(/usr/local/bin など)に移動。
  3. XNViewMP.appで画像を開き,ガンマ補正などのパラメーターを決める。今回は,コントラスト20,ガンマ0.40に決めた。
  4. ターミナルを開き,画像ファイルのある階層に行く。nconvertを使って,すべてのページをモノクロにするのだが,まずは200%に拡大し,それから画像補正(コントラスト,ガンマなど),しかるのちに,階調を64(6 bit)から順に半分ずつにして2bitまで下げ,最後に白黒2値(1bit)に落とす。具体的には,次のようにする。
    nconvert -ratio -rtype lanczos -resize 200% 200% -contrast 20 -gamma 0.4 -dither -grey 64 -dither -grey 32 -dither -grey 16 -dither -grey 8 -dither -grey 4 -binary nodither *.tiff
  5. 変換された画像を結合する。Acrobatを開いて,hr_Page_001.tif からhr_Page_450.tif までを1つのPDFにまとめ,適当なファイル名で保存。ここでは hr_mono.pdf とする。なお,TIFFの読み込みについては,デフォルトではJBIG2のロスレスでの圧縮になっていたが,これだと表示に時間かかるみたいなので,CCITTでの圧縮に変更した。もっとも,あとでPDF/Xにするなら,ここは気にしなくても良いかも。
  6. このままでも良いが,OCR処理する。画像は元のまま(exact)としたが,300dpiでダウンサンプリングしても良いかも。hr_mono_ocr.pdf として保存。
  7. OCRかけると,なぜかMacのPreviewで読むとき,スクロールが非常に重たい。そこで,PDF/Xに変換する。デフォルトのX1aのタイプにしたが,違いはよく分からない。hr_mono_ocr_x1a.pdf として保存。

以上で完了。最後のPDF/X化をすることで,スクロールが非常にスムーズになり,快適。ファイルサイズも30MBくらいだし,文字もくっきりと黒くなって,とても読みやすくなった。

Hardy-Wright Page 238

シンガー、ソープ「幾何学とトポロジー入門」

なかなか進まないが、ぼちぼち本棚の整理&PDF化を実行中なのである。久しぶりに SingerとThorpe共著の Lecture Notes on Elementary Topology and Geometry に遭遇。

大学3年の輪講で使っていたテキスト。初めて買った洋書の数学の本だったかもしれない。

Singer, Thorpe : Lecture Notes on Elementary Topology and Geometry

予備知識があまりなくても読めるし、よく出来た本だとは思うが、個人的には位相のあたりがまどろっこしかった。もっとも、それは手っ取り早く de Rham の定理に辿り着きたいという気持ちがあったからだったかもしれない。この本の立場は、そうではなくて、無味乾燥になりがちな位相空間入門を具体的目標(de Rhamとかリーマン幾何とか)を掲げて魅力的に展開しよう、ということなのだろう。

日本語訳も出ていて、欲しいなあと思いながら、同じ本が2つあってもなあと、結局買わずじまい。

ジーゲルの超越数の本

2週間ほど前に注文していた本が届いた。ジーゲル (Carl Ludwig Siegel) の「超越数」(Transcendental Numbers) である。残念ながら古本なのだが,大好きな本なので,原書が本棚に並ぶのはとっても嬉しいのだ。

Carl Ludwig Siegel の Transcendental Numbers

ジーゲルは日本語(というかジーゲル自身が理解できない言語)への翻訳を許可しなかったらしく,ジーゲルの本で日本語訳が出版されているものはない。そうなのだが,自家版の訳というのがあって,それを貰って読んでいたから,今日まで原書を見ることがなかった。いや,大学の図書館で一度手に取ったことがあるにはあるのだが,訳本持ってるからということで,ざっと眺めるだけで終わっていた。

ふと,一度原書で読んでみたいと思った。原文ではどう書いてあるのかなと思う箇所も幾つかあったりしたので。

プリンストン大学の例の赤本のシリーズなのだが,本文ぴったり100ページの小冊子であることに驚く。これで$e$が無理数であることからゆったりと始めて,最後はGelfond-Schneiderの定理にまで到達するのだからすごい。印刷はタイプライターの印字なので,数式などちょっと読みにくいところもあるのだが,急がずのんびりと原文で読み直してみようと思う。

ディユドネ:現代解析の基礎

まだまだ本棚&部屋の整理は出来ていないのだが、それでも少しずつは本が減っているはずなので、自炊というか業者さんに頼んでPDFにしたものから、いくつかをメモ。

ディユドネ 現代解析の基礎1

Jean Dieudonne (ディユドネ) の Foundation of Modern Analysis (現代解析の基礎) である。中身はPDFにして、本体は廃棄処分にしちゃった。もう、この本を改めて読むこともないだろうし。

いまにして思えば、こういう本が流行った(?)のは、そういう時代だったのだと思う。多変数関数の微分が、線形写像近似、つまり「微分係数=行列」というのを、ある種感動して学んだのも、若かったからだ。フレシェ微分というのも、もともとは関数解析で発展した話ということだろう。それを有限次元ユークリッド空間での微積分に適用すると、このようになるということだろう。

ということで、今から見ると感動のない本なのであるが、まあ、思い出ということで。同じ頃の微積の本としては、杉浦先生が言及されていたグラウエルト(Grauert)のシュプリンガーの本の方が、微積って感じがして、いまでも良さげな感じがするね。

Polya-Szegoの問題集(2)

本の整理はそっちのけで Polya-Szego
(ポリア&セゲー)共著の問題集を読んでいるが,久し振りに眺めると面白い問題が目白押しだ。
比較的初等的で,面白そうなものをピックアップ。 \[
A_n=\frac{1}{n+1}+\frac{1}{n+2}+\cdots+\frac{1}{n+n} \] が $A=\log
2$ に収束することは,区分求積法(リーマン和)から直ぐに分かる。では,どれくらいのスピードで収束するだろうか。Part II の
No.12 によれば \[ \lim_{n\to\infty} n(A-A_n)=\frac{1}{4} \]
が成り立つらしいのである。
これは簡単に解けた。リーマン和は微小長方形の和なので,積分を長方形で近似したときの誤差評価をすればよい。関数$f(x)=\frac{1}{1+x}$は区間$0\leq x\leq 1$で単調減少かつ下に凸であるから,各長方形での誤差は,上からは弦で,下からは右端での接線で押さえることが出来る。
下からの和は,これまた区分求積法で上から押さえたものと同じ値に収束する。そういうわけでこの場合, \[
\lim_{n\to\infty} n(A-A_n)=\frac{1}{2} \lbrace f(0)-f(1)\rbrace
=\frac{1}{4} \] となる。

ステキなトポロジー入門書

Algebraic Topology: A First Course (Graduate Texts in Mathematics)

William Fultonと言えば、Benjaminから出ている代数曲線の入門書のイメージがあったので、代数的トポロジー?ふーん、というのが第一印象だった。邦訳を本屋で見かけた気もするが、スルーしてしまったような。

最近になって、原書の方を読む機会があって驚いた。代数的トポロジー(位相幾何)というと、三角形分割とか単体的ホモロジーとか、特異ホモロジーとか、CW複体とか、そんなイメージでいたのだが、この本は全然違う。低次元の具体的な場合を中心にして、微分形式や積分との関係、リーマン面や代数曲線、ドラム・コホモロジー、そんなことが次から次へと出てくるのだ。

著者によれば、これは歴史にも沿っているのだという。確かにガウスが複素積分を考えたときあたりから、道(パス)のホモトピーなどは始まったわけだが、それでも、第1章のタイトルが「線積分」というのはかなりインパクトがある。だって、代数的位相幾何の本ですよ。そのとっぱじめが積分なのだから。


ということで、ざっと目次を眺めてみる。第1部「平面上の微分積分」第1章 線積分。最初から微分形式の積分、閉形式($d\omega=0$)が完全形式($\omega=df$)になるか、とかと単連結性が関係してくる話。第2章 角度と変形 では、Winding数を積分で定義して(もちろん動機付けあり)、それが整数になること、そして、パスの持ち上げから被覆面(Covering surface)の話へ。第2部「Winding Number」は、いかにもトポロジーらしい話。第3部「コホモロジーとホモロジー」ホモロジーからでなく、コホモロジーから入る。しかも、ドラム・コホモロジーだ 😯 まあ、第1部からの流れではこうなるのだろう。とは言っても、0次元と1次元のみに限定みたいだから、抽象的でめげることはないだろう。言葉がちょっとばかり難しそうだってことを除けば。

このあと、Meyer-Vietorisの完全列やVan Kampenの定理、チェックのコホモロジーと、位相幾何らしくなる。何となく Bott-Tu の本をもっと易しくしたような感じ。とにかく2次元までなのが良い(笑)。

油断していると最後にリーマン面と代数曲線の話が来る。リーマンの双1次形式やヤコビアンとか、アーベル・ヤコビの定理とか。リーマン・ロッホの定理まであって、このあたりは完全に代数曲線論になってしまっている。

詳しく読まずにざっと眺めただけなのに、知ったふうに書いてしまった(汗)。これからちゃんと読んでみます 😉 。

KorchnoiのChess Is My Life

Chess Is My Life (Progress in Chess)

今日の午後は,ベッドに横になりながら,Victor Korchnoi (コルチノイ)の Chess Is My Life をずっと読んでいた。チェスの技術書ではなく,コルチノイの自伝。当局からもにらまれ,チェスの為にコルチノイは亡命するのだが,その頃に書かれた本みたいだ。ソビエト社会のいや〜な部分もけっこう書いてあり,ますます Karpov が嫌いになったりした 😉 。フィッシャーへの挑戦権をめぐるトーナメント決勝でコルチノイはカルポフに負けてしまうのだが,カルポフが鮮やかに勝った Sicilian Dragon の一局は,コルチノイに言わせると全てが事前のアナリシスなのだそうだ。

Fischer (フィッシャー) や Spassky (スパスキー)の逸話などもけっこうあって,楽しく読んだのだが,ちょっと目が疲れた。やっぱ,英語は疲れるなあ。