ケルナーの「フーリエ解析大全」(Körner : Fourier Analysis) は楽しい本なのだが,翻訳がちょっとどうなのかなあ,と思う箇所が時折ある。先日,ケルヴィン卿 (William Thomson) の話を読んでいて,やはり違和感を感じた。次の写真は,下巻のp.272なのだが,Thomsonがストークスの定理の発見を見逃した,と書いてある。そんなバカな,である。
ストークスの定理については,最初に発見したのがトムソンであり,トムソンからストークスへの手紙に書かれていること,ストークスがケンブリッジだったか,大学の数学コンテストの問題として出題した結果,ストークスの定理として広まったこと,これらは良く知られている話であり,どうして「発見を見逃した」ことになっているのか,まったく不可解である。
ということで,原文に当たってみた。次がスキャンしたもののスクリーン・ショット。
当該箇所を書き出してみる。
Other discoveries and inventions of Thomson are dealt with elsewhere in this book. We note in passing the discovery of what is now called Stokes’ theorem and the first mathematical discription of the oscillation of an electric circuit.
うーむ。これがどうして上のように訳されるのか,全く不可解だ。in passing を辞書で調べると,「事のついでに」とか「ちなみに」という意味らしい。してみると,次のような内容なのだろう。適当訳だが。
これ以外のトムソンの発見・発明についてはこの本の別の場所で扱うことになるが,ここでは,今日ストークスの定理と呼ばれている定理の発見と,電気回路の振動を初めて数学的に記述したことを注意しておこう。