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2005年01月29日

いまさらルベーグ積分?

正直言ってルベーグ積分はきちんと理解していない。リーマン積分よりも一般的で,積分と極限を交換してよいとか,便利なものだ,というくらいの認識。大体,基礎となる測度論にあまり興味が持てなかった。可算加法性がどうして重要なのかとかピンとこないことが多かった。

前にちょっとだけ書いたことだが,エミール・ボレルの「一般集合論」という啓蒙書というか入門書を読んでいるのだが,目からうろこではないが,なるほど,と納得してしまった。なんかちょっと嬉しいな!

大体,ルベーグ積分の教科書では,ボレル集合とか出てきるが,ボレルの名前はそこで終わりで一体何なんだろう,と思っていたのだった。ボレルの本を読むと,ルベーグに先駆けて重要な仕事をしていたことが分かる。

ボレルの本は専門書ではなく,大衆向けの啓蒙書という感じなので,具体的で非常に分かりやすい。線分の長さという概念を一般の集合(この場合は数直線,つまり実数全体の部分集合)にどう拡張するか,ということから始まって,まずカミーユ・ジョルダンによる測度の定義を述べる。その定義では,たとえば0と1の間にある有理数の全体は,外測度1,内測度0で,測度が定まらない。一方,0と1の間にある無理数全体についても同様の結果となる。

さてボレルは言う。有理数は無理数にくらべれば,限りなくまばらであるのだから,有理数全体と無理数全体の測度が等しいというのは,まさしく逆説的だ,と。そして,このことを解決するために,ボレルは新しい測度の定義を考えたのだと言う。後になり,ルベーグがボレルの定義に「B測度」という名を与えたのだそうだ。

0と1の間にある有理数は無理数よりもまばらである。カントールが示したように可算無限個(可付番)でしかない。そこで,それらを一列に並べる。最初の有理数を含む長さε/2の区間を考える。次に2番目の有理数を含む長さε/4の区間を考える。以下同様にして,区間の幅が公比1/2の等比数列となるようにする。0と1の間にある有理数の全体をEで表すと,Eは上で作った区間の合併に含まれるが,この区間たちの長さを全部足しても,εにしかならない。つまり,集合Eの測度はεよりも小さいことが結論される。εは任意の正の値をとれるので,Eの測度は0でないとおかしいことになる。

こんな感じなのだ。もちろん今の話には,これから作ろうとしている測度の公理が暗黙裡に入ってはいるが,有理数が可付番個しかないということから測度が0でなければならないことが,きわめて自然に説明されている。ここで基礎となるのは可付番個の区間について長さの和をとってよいということだ。つまり可算加法性の重要性がはっきりする。

ボレルの説明は,このような初等的な例から始まって行くのだが,無限個の区間を扱う際の危険性とそれを避けるための基本定理が次に書いてある。その基本定理というのが,何とハイネ・ボレルの定理なのである。つまり今の言葉で言えば,閉区間がコンパクトであるという内容。脚注が付いていて,この定理がボレルの学位論文で初めて述べられ,かつ証明されたということが述べてある。

こうやって読んでいくと,高々可付番個しかない集合は測度0であるべきだ,という事,それから,集合を無限個の区間で覆っている状態から,(無限個のまま処理すると非常識なことも起こりうるということから)有限個でのカバーにもっていきたい,という事,ボレルの名前が付いている2つの事柄が密接に関係していたことが分かる。コンパクトの概念が測度論がらみで出てきたとは知らなかったなあ。

なんとなく心理的障壁を越えた気がしてとても嬉しい。もっとも測度論をまじめに勉強しようとは思わないんだけど(笑)。

投稿者 sukarabe : 2005年01月29日 23:37

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コメント

測度論は、一度学んでしまうと世界が広がります。
「測度0」を除いて一致する関数は、”同じ”とみなすなど、関数概念の拡張ともいえますし、極限演算と積分記号の交換が可能、ということも最初は感動を覚えます。

>もっとも測度論をまじめに勉強しようとは思わないんだけど(笑)。
たしかに、ルベーグ積分の本のいたるところで、”ほとんどいたるところ”(略して、a.e = almost everywhere の略)と書かれるので、困りますね(苦笑)。

投稿者 calc : 2005年02月01日 08:18

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