楕円関数の話(2)


レムニスケートの積分 $\int \frac{dx}{\sqrt{1-x^4}}$ のように,3次式,4次式の平方根を含む積分は,
総称して楕円積分と呼ばれる。
楕円の弧長がこのタイプの積分になることが名前の由来であるが,それ以外に楕円との関係は特にない。
楕円に特有の積分というわけでもないから,実はあまり良くない名称とも言える。
それはともかく,この楕円積分,良く知られた初等関数(有理関数,三角関数,指数関数,対数関数,などなど)では表せない。
これに対して,2次式の平方根を含む積分は初等関数で表すことができる。例えば,
\[ \int_{0}^{x} \frac{dx}{\sqrt{x^2+1}}=\log(x+\sqrt{x^2+1}), \qquad
\int_{0}^{x} \frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=\arcsin x \]
である。
2番目の積分はレムニスケートの積分と形が似ているが,これが一つのポイントとなる。

さて,レムニスケート積分に関して,
\[ \int_{0}^{r} \frac{dx}{\sqrt{1-x^4}}=2\int_{0}^{u} \frac{dx}{\sqrt{1-x^4}} \]
のとき
\[ r=\frac{2u\sqrt{1-u^4}}{1+u^4} \]
が成り立つというFagnanoの発見に戻る。
これが倍角公式であることを理解するには,三角関数とのアナロジーを考えると良い。
$\int_{0}^{x} \frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=\arcsin x$
が正弦関数の逆関数であることから,
\[ a=\int_{0}^{r}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}, \qquad b=\int_{0}^{u}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}} \]
とおくと,$r=\sin a$, $u=\sin b$ である。
\[ \int_{0}^{r}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=2\int_{0}^{u}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}} \]
のときは,$a=2b$ となるから,
\[ r=\sin a=\sin 2b=2\sin b\cos b=2u\sqrt{1-u^2} \]
となる。

以上から,
\[ \int_{0}^{r}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=2\int_{0}^{u}\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}} \]
のときには
\[ r=2u\sqrt{1-u^2} \]
が成り立つが,この事実は正弦関数についての倍角公式と同じ内容であることが分かる。

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