とあるレンマ


[ 備忘録 ] (Coxの本の証明が気に入らなかった(?)ので、自前の証明。もっとも、自分で考えたあとでもう一度読んでみたら、実は同じだった(爆)。いや、よく見れば内容的には同じなのだが、提示の仕方がねえ・・・。
ということで、自分の為に記録。)

初等的議論で次の Lemma (補助定理) を示すことができる。

2個の平方数の和として表される自然数$N=x^2+y^2$と、その素因数$p$を考える。
もし、$p$も$p=a^2+b^2$と2個の平方数の和になるならば、
$\frac{N}{p}$も2個の平方数の和として表される。

例えば、$N=65$とその素因数$p=5$は
\[ N=65=16+49=4^2+7^2, \qquad p=5=1+4=1^2+2^2 \]
と2個の平方数の和として表される。よって、$\frac{N}{p}=13$もそうなのである。実際、
\[ \frac{N}{p}=13=4+9=2^2+3^2 \]
となる。これがいつも成り立つことをレンマは主張するものである。

2個の平方数の和の全体が「積に関して閉じている」ことは、ブラハマグプタの恒等式
\[ (a^2+b^2)(z^2+w^2)=(az+bw)^2+(aw-bz)^2 \]
から直ちに分かるが、商に関しても同様の事が成り立つことは自明ではない。
とはいえ、証明のアイディアはやはりこの恒等式にある。


$p=a^2+b^2$と$N=x^2+y^2$が与えられたとして、$\frac{N}{p}=m$とおく。
目標は$m=z^2+w^2$を満たす整数$z$, $w$を見出すことである。
ブラハマグプタの恒等式
\[ (a^2+b^2)(z^2+w^2)=(az+bw)^2+(aw-bz)^2 \]
と見比べてみれば、
\[ \left\lbrace\begin{eqnarray} az+bw&=x\\ -bz+aw&=y \end{eqnarray}\right. \]
を満たす$z$, $w$があれば、それで目的が果たせることが分かる。
実際、これが成り立っているとして、恒等式に代入すると、
\begin{align*}
p(z^2+w^2)&=(a^2+b^2)(z^2+w^2)\\
&=(az+bw)^2+(aw-bz)^2\\
&=x^2+y^2=N=pm
\end{align*}
となるので、両辺を$p$で割れば $z^2+w^2=m$ を得る。

しかし、問題は上記の連立1次方程式の解$z$, $w$がはたして整数になるか、ということである。
具体的に解を表示すれば、
\[ z=\frac{ax-by}{a^2+b^2}=\frac{ax-by}{p}, \qquad y=\frac{bx+ay}{a^2+b^2}=\frac{bx+ay}{p} \]
であるから、分子の2つの整数
\[ K=ax-by, \qquad L=bx+ay \]
が果たして素数$p$で割り切れるだろうか、という問題になる。

これは次のようにして解決できる。ポイントは$K=ax-by$の他に、$b$を$(-b)$に取り替えた$K’=ax+by$を考えることである。
$p=a^2+b^2$の表示において、$a$と$b$は符号を変えても構わないのだから、もし、$K$が$p$で割り切れなくとも、$b$の符号を変えた$K’$の方なら望みがあるかもしれない、という訳であった。
その際には、$L$の方も$b$の符号を変えた$L’=-bx+ay$にするのである。

さて、$K$と$K’$のいずれかが$p$で割り切れれば良いという状況になった。そこで、この2つの積を作ってみる。結果は、
\begin{align*}
KK’ &=(ax-by)(ax+by)\\
&=a^2x^2-b^2y^2 \\
&=a^2x^2+a^2y^2-a^2y^2-b^2y^2\\
&=a^2(x^2+y^2)-(a^2+b^2)y^2\\
&=a^2 N-py^2
\end{align*}
となるから、$KK’$は$p$で割り切れる。$p$は素数であるから、$K$と$K’$の少なくとも一方は$p$で割り切れることになる。

さあ、ゴール目前。いやあ、分かっていることでも実際に書いてみると長くなりますですねえ。ああ、始めなきゃよかった 😥

ということで、必要なら$b$の符号を変えることで、$K=ax-by$が$p$で割り切れると仮定してもよい。
このとき、$L=bx+ay$の方も$p$で割り切れることを示したいのであるが、正直言うと、この箇所でかなり苦労した。天下りに式を与えられるのはワタシが最も嫌いなところなので(苦笑)、後知恵とは言いながらも、それなりにもっともらしい自然な議論をしたいのであった。

無駄口はこれくらいにして、そろそろゴールに入ろう。
\[ \left\lbrace\begin{eqnarray} ax-by&=K\\ bx+ay&=L\end{eqnarray}\right. \]
を$x$, $y$について解いてみると、
\[ x=\frac{aK+bL}{a^2+b^2}=\frac{aK+bL}{p}, \qquad y=\frac{-bK+aL}{p} \]
となる。つまり、
\[ px=aK+bL, \qquad\qquad bL=px-aK \]
である。この式から$K$が$p$の倍数ならば、$bL$も$p$の倍数であることが言える。
$p=a^2+b^2$は素数であったから、もちろん$p$と$b$は互いに素である。従って、$L$は$p$の倍数となる。

以上から、$z=\frac{K}{p}$, $w=\frac{L}{p}$ は、いずれも整数であることが示され、$m=\frac{N}{p}$もまた2個の平方数の和として表されることが分かった。QED

“とあるレンマ” への2件の返信

  1.   sukarabeさん。お久しぶり。EROICAです。

     お元気そうで何よりです。この投稿、

    >ああ、始めなきゃよかった

    なんて、言葉も見られますが、読んでいて楽しかったですよ。

     やっぱり証明をきちんと、しかも、論理的にすんなりと見えるように、自然に書こうとすると、長くなるものですよね。

     でも、sukarabeさんのせっかくの投稿、少なくとも一人、楽しんだ少年、いや中年のおじさんが、いたことだけ、お伝えしておきます。

     これからも、時々は、気合いを入れて、数式も書いてくださいね。

     それでは。

  2. EROICAさん、お久しぶりです。

    懲りもせず、たまに数学ネタ書いてますが、完全に自分の為の備忘録と化しております。今回はめずらしく完結したネタですが、これとて、もっと長い話の断片だったりします。つたないものを読んでいただいて恐縮です 😛 。

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